先日ご紹介した大阪大学の研究と、私たち株式会社薫化舎の特許技術やサービスは、どのような関係にあるのでしょうか?それが結局どうなっていくのですか?。とのご質問をいただきました。このご質問にお答えする形で、両者の意義と、その先に見据える未来(夢)について書かせていただきます。
○「地図」を示した大阪大学の研究と、「乗り物」を提示する薫化舎
大阪大学の研究は、「発達障害における感覚異常の原因は、脳だけでなく、末梢の感覚器である網膜の機能不全にも起因するのではないか?」という仮説に対し、マウスモデルを用いて科学的な証拠を提示しました。これは、介入や治療を考えるべき新たな「ターゲット(標的)」として、網膜の重要性を明らかにした画期的な成果です。しかし、この研究は「では、どうすれば網膜に効果的に働きかけられるのか」という具体的な解決策を示すものではありませんでした。
一方、薫化舎が実践する「認知リフレーミング®」や「CRIS®」は、「視覚情報(光入力)を調整することで網膜に働きかけ、認知機能の改善を目指す」という具体的な「アプローチ(解法)」です。これは、大阪大学の研究が照らし出した「ターゲット」に対し、奇しくも同じ方向を向いた具体的な介入手段の一例といえるでしょう。
興味深いのは、私たちの実践的アプローチが先に存在し、その後に大阪大学の学術研究が、その「方向性の正しさ」を科学的に裏付けてくださった点です。現場での実践と学術研究が、異なる場所で同じ問題意識を共有していたことは、示唆に富む符合だと感じています。
この関係を分かりやすく例えるなら、大阪大学の研究が『問題はここにあります』という精密な地図を示し、薫化舎の技術は『この道筋で問題にアプローチできます』という具体的な乗り物の一つを提示している、といえるかもしれません。
○ 現状の課題と、その先へ進むために
もちろん、薫化舎の技術は現状、クライアント一人ひとりに最適なプログラムを提供する「個別最適化(N-of-1)」が中心です。これは科学的アプローチではありますが、社会全体への応用を考えると、その有効性の科学的エビデンスレベルはまだ十分とは言えません。
この技術が広く社会に実装されるためには、ランダム化比較試験(RCT)による有効性の証明、さらには複数の研究結果を統合・評価するシステマティック・レビュー(SR)といった、より高いエビデンスレベルの確立が不可欠です。
○ 未来への展望「もし最高レベルのエビデンスが確立されたなら」
ここからは、もし「認知リフレーミング技術」がシステマティック・レビュー(SR)によって有効性を確立できたなら、社会にどのような変化が起こりうるか、という未来への想像図です。少々壮大に聞こえるかもしれませんが、お付き合いください。
1. 「認知プレシジョン・メディシン」の到来
がん治療が遺伝子情報に基づいて最適化されるように、個人の「認知特性」に基づいた介入が標準となる時代が訪れるかもしれません。
* 診断から「特性把握」へ: 「発達障害」といった包括的な診断名ではなく、個人の網膜の情報処理パターンや光入力への感度といった客観的データに基づき、「どのような認知特性を持つ個人か」を精密に把握します。これは、阪大の研究が示した「網膜の機能異常」という指標を、究極まで発展させたアプローチです(現在、より高度な測定とデータ化を行えるための研究を進めています)。
* 治療から「最適化」へ:
介入の目的は、単に「症状を抑える」ことから、「個人のポテンシャルを最大化する」ことへシフトします。本技術は、その人の特性に合わせて視覚入力を調整し、脳の神経可塑性(ニューロプラスティシティ)を最も効率的に引き出す「オーダーメイドの鍵」として機能するでしょう。応用範囲は、ひきこもりや不登校といった課題から、認知症の予防、脳損傷後のリハビリテーションにまで広がる可能性があります。
2. 教育と人材開発のパラダイムシフト
「みんな同じ」を前提とした画一的な教育システムが根本から見直され、個々の神経多様性(ニューロダイバーシティ)を活かす社会が現実のものとなるでしょう。
* 個別最適化された学習の実現: 全ての子供が、自身の認知特性に合った学習環境(特定の光環境や情報提示の速度など)を得られるようになります。「学習障害」という概念そのものが変容し、「学び方のスタイルが異なるだけ」という認識が社会の常識になるかもしれません。
* 「隠れた能力」の発見と活用: 私たちが目指す「隠れた能力を見つけ出す」アプローチが社会全体で実現します。これまで「集中力がない」と評価されてきた特性が、特定の環境下では「並外れた創造性」や「危機察知能力」として再評価され、適した職業や役割に結びつけられるようになります。未開拓だった人的資本が解放され、新たなイノベーションの土壌が育まれるはずです。
3. 労働市場と経済構造の変革
個人の能力が最大限に発揮されることで、生産性の向上と新たな産業の創出が期待されます。
* 生産性の飛躍的向上: 従業員一人ひとりの認知特性に最適化された業務環境やタスクが割り当てられ、ヒューマンエラーの減少と全体の生産性向上が見込めます。これは、企業がニューロダイバーシティに取り組む強力な動機となるでしょう。
* 「ライフコースケア」産業の確立: 認知特性の評価、最適化プログラムの提供、キャリア設計までを包括的に支援する「ライフコースケア」が、一つの巨大産業として確立するかもしれません。専門の「認知リフレーミング士」や技術者など、新たな専門職も多数生まれるでしょう。
* 社会保障コストの削減: これまで支援を必要としていた人々が自立して社会で活躍することで、医療費や福祉関連の社会的コストが大幅に削減される可能性も秘めています。
○ 夢の先にある現実を見据えて
これほど強力な技術が社会に浸透することは、同時に新たな倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を生む可能性もはらんでいます。技術の恩恵を最大化すると同時に、その影響にも慎重に目を向けなければならないでしょう。
しかし、そうした課題を乗り越えた先には、この技術が多くの人々を「生きづらさ」から解放し、個々のポテンシャルを最大限に引き出す、より豊かで生産的な社会が待っていると信じています。誰もが排除されない、(私がかつて携わった「矯正」の世界ではなく)真の「共生社会」が実現するかもしれない。
少しユートピア的で、子どもじみた夢物語に聞こえるかもしれませんが、これが私たちの技術が目指す未来の姿です。ひとり言として、お許しいただければ幸いです。