息子は学年が上がるごとに、どんどん問題が多発してきました。読み書きや分数でつまづき、宿題も時間がかかります。そのため夜遅くなってしまい、基本的な生活習慣が乱れて、寝不足になります。そうすると心身ともに不安定になり、生活レベルが低下して、てんかんから派生する問題と相まって、問題行動多発となります。友だちとうまく遊べない、女の子に依存して嫌わられるなど…。私は、仕事が終わってから、ご迷惑をおかけした子どもさんのお家に行きお詫びすることが増えてきました。
特に、問題の背景にてんかんがあるので、脳波の安定が重要なので、教育指導に加えて通院と薬の適合など大変でした。しかし、堺市の小学校はとても温かい配慮をしてくださいましたし、堺市にある専門の病院もとても良い治療をしてくださったので、本当に助かりました。
例えば運動会などでも、息子が喜ぶような結果を出せるように競技種目を工夫してくださり、自尊心の回復などが目に見えて分かり、親としても嬉しかったです。病院も運動会に合わせて薬の調整などもしてくださいました。また、学校全体で様々な問題が起こっても子どもだけでなく、保護者にも毅然とした態度で校長先生以下教員の皆さんで、納得いく解決などを行なってくださいましたので、子どもたちも安定していました。
このように学校の雰囲気が良いことと相まって、病気を抱えた息子までも皆様のお力で支えてくださったことが、私の職務上の意識にもつながっていきました。私の専門の犯罪学のリスク論でも、非行防止の保護要因として、学校などの地域のつながりの強さなどが指摘されていましたが、まさに堺市の小学校からそれを実際に学ばせていただき、以後心に留めることができました。
また、学習障害の指導方法についても上司の指示により東京時代から上野一彦先生の勉強会にも参加させていただいていました。文献などを読んだりしてわかったつもりになっていましたが、障害児の親の立場になってから、それまでの自分の甘さを痛感しました。やはり、実体験の中でもがいていると、翻訳や文献調査などの机上の研究だけでは、実際の親や子どもの悩みや苦労などを人ごととして捉えてしまっていたのだと反省させられていました。
そんな状況でしたので、職場で私がお預かりしている子どもたちや保護者の方々のお悩みやご苦労がよく見えて、若い時よりも理解できるようになってきました。教官の指導にも不貞腐れて対応する子どもや課題を与えられると逃げたり、反抗したりして回避しようとすることを見ていると、彼らの幼児期からの学習や生活はどのようであったかなどに自然に目が向くようになりました。私は幹部であったので、全体のときには厳しい役割を演じていましたが、個別には、よく子どもたちのお話を聞くようにしていました。
個別に詳しくお話を聞くと、前回にご紹介しましたが、当時の細井分類統括(弊社社長)のデーターどおり、ほとんどが学習障害のような問題を抱えていることが見えてきました。読み書き•四則計算が苦手、アナログ時計の読み取りの苦手、人の顔の記憶や弁別が苦手、時系列の混乱、方向感覚の混乱、言語理解の混乱など、非行行動の背景には、発達上の問題が多発していました。保護者の方にお聞きしても、上記の問題に加えて、幼稚園時代から高所での恐怖がなくて、ヒヤヒヤしていた。夜泣き、吐き戻しが凄かった。おねしょが中学まで続いた。神社に行くとお賽銭を平気で盗んできた。などご苦労の連続で、子育てに疲れておられたお母様が特に多かったです。
やはり、従来の指導法だけでは彼らの根本的な問題や課題は解決できないことが見えてきました。(こんなことを書きながら、当時からもう28年も経っていることに内心驚いています。こんな古い話で申し訳ないです。)そこで、発達課題。特にハビィガーストの発達課題をベースにして、いわゆる育て直しという視点から、つまづいた発達課題をターゲットにしたプログラムを開発していきました。
特に、乳幼児期と児童期の発達課題を再度確認して集団と個別に対して指導計画を立てていきました。矯正教育の核となる施設の基本的教育計画なども改正して組織として取り組みました。例えば乳幼児期は、歩行や摂食、会話などの基本的技能の習得や排泄のコントロール、単純な概念形成、善悪の区別などの発達課題があります。
しかし、この乳幼児期の発達課題も克服していない子どもたちもかなりの割合でいたのです。歩行もまっすぐに歩けなかったり、咀嚼などもうまくできないため、飲み込んでいたり、好き嫌いが多く、腸の調子を崩していたりして、顔色が悪い原因もよく見えてきました。概念形成においても、物の名前やその性質(ボールは転がるなど)がわかっていなかったり、児童期の発達課題である友だち関係や約束を守るなどの社会的概念形成さえもあやふやでした。社会的役割の理解などは、彼らにとって遠い先の発達課題でもありました。この視点から、従来の矯正教育を発達の課題をターゲットして、指導方法と内容をより精密化する必要があることが見えてきたのです。(つづく)
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